小栄は、ガクガク震える・・・そして、こらえていたものが溢れ、 しもを濡らしてしまった。
男の声は容赦なく続ける。 「このまま、真っすぐ、振り向かずに門をでろ。さすれば、命は取らぬ。 よいか、決して振り向くな、そしてこのこと何人たりともに口外するな ・・・たがえれば・・・斬る。」
小栄は、出ぬ声の代わりに必死に何度も頷いた。
そして男は、「いけっ」と彼女の背をついた。
小栄は、決して振り向きはしなかった・・・ 彼女の眼にはただ、八木邸の門だけしか映らなかった。 平山のことなど片隅にも浮かばなかった。 所詮、一夜二夜だけの買われた仲である
そして濡れたことへの恥じらいすら忘れ ただ・・・ひたすら走って逃げた。
小栄の姿が消えるのを見届けながら、 大刀の下緒を襷とし、男は彼女が戻るはずであった場所へ、 平山五郎がいる部屋に女の代わりに戻った。 それと合わせるかのように平間重助とその女、糸里がいる部屋に控えていた二人の男が入る。
梅は、行ったきり、戻らぬ女の足音など気にも止めずに 、雨音を聞きながら芹沢の帰りを待った。 |