沖田総司の脳裏に懐かしい試衛館道場が浮かんだ・・・ 近藤勇の養父であり、そして自身の師、近藤周斎の老いてなお力強い声が 道場に響く。 文久元年八月、皆が稽古を終え、閑散とした道場に天然理心流三代目宗家近藤周助は、沖田宗次郎を残した。
「わしは、明日、この天然理心流試衛館道場を勇に譲る。 そして、隠居の身となり、名も周斎と改める。 もう、わしが持つ技でお前に教えるものはない・・・ よいか、これからは近藤勇を師と仰げよ、宗次郎」
稽古の時とは違う穏やかな口調で宗次郎に語る。
「周助先生、これまでのご指導ありがとうございました。」 沖田宗次郎は、敬愛の眼差しで周助を仰ぎ、 そしてこれまでの感謝の念を伝えるかのように平伏した。
思い起こせば十年の歳月・・・ 八歳の賄い 一つできぬ子供を内弟子として引き取り、 手取足取り 一から剣術の基本を根気よく教え、 時には厳しく、時には父親の如き情をもって自分を育ててくれた剣の師であり、人生の師であった。
その近藤周助が自らの人生すべてを捧げてきた天然理心流を離れる時が きたのである。 近藤周助は、宗次郎の稀代の剣術の才、天賦の力を見抜いていた。
「宗次郎、おまえは確かに剣の申し子だ。 しかしな、けっしてのぼせ上がるでないぞ。 世には、溢れんばかりの使い手がおる・・・ お前とてその中の 一人に過ぎぬ」 |