「あの女に近づくと腹切りもんだ。」
増田の切腹が新撰組隊士達の中で一気にひろまった。 そして、それとともに、今までお梅に向けられていた隊士たちの甘い視線が一転して嫌悪のものとなった。 梅は若い隊士達の羨望という心地よい存在から恐怖の存在となったのである。 そしてその恐怖と嫌悪の視線の中に 憎悪をもった永倉の眼が梅をいつも監視しているようである。 居たたまれなかった。
「なんで、うちがこんな目にあわんといかんのやろ・・・」
・・・いっそのこと、こんな所は出て、菱屋の主人のもとに戻ろうか・・・ いや・・・今さら、帰れるものか・・・ それにここを出れば・・・あの男に二度と会えなくなる・・・ あの・・やさしい顔とは裏腹にもう一つの恐ろしい鬼の眼をもつ男に・・・
梅は、ふと、母親の口癖を思い出した。
父が早くに死に、女手一つで自分を育てた母・・・ そのために何人もの男と繋がっていた母・・・ そして最後は捨てられて体を病んで死んだ母・・・
その母親がいつも梅に言っていたことを・・・
「お梅、ええか、男に溺れるんやないで、男を溺れさせる女になるんえ」
その通り自分は今まで男達を溺れさせて生きてきた。
男達に利用され捨てられた母親のようにはなるまいと、心に誓いながら。 |